Tuesday, October 28, 2025, 08:43 PM
このところ、室町以来のアジアにおける「（国家としての）兄、弟」の関係を前提に、最近は江戸時代の学者や為政者の考え方、特に、彼等の儒教ヒエラルキー重視の度合いを探ってきました。そこで、一応の中締めとして、八代将軍吉宗という「実務家」を扱ってみたいと思います。
吉宗といえば、我々に関係が深いのは『公事方御定書』です。それはまさに中国法そのもので、要は「何々し候者切腹」などと、犯罪への対応、構成要件が細かく分かれ、それに対しては唯一の刑罰しか課せないということになっています（絶対的法定刑主義）。「目には目を」以来のアジアの法律（？実は行政組織内部の通達）です。
これは何も吉宗が始めたというわけではなくて、父の光貞が和歌山時代に『大明律例諺解』を、吉宗自身が『大明律例譯義』を作っていて、即ち、明国の法律を日本に当てはめたもの、と単純に言ってしまえばそうなるでしょう。
要は、中国皇帝と同じく司法大権を将軍が独占し、やりたいようにやる、というわけで、享保の改革という文言に惑わされて、良いことをしたというような評価には簡単に左袒できません。ちなみに「胡麻の油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」は彼のブレーン・神尾春央の言葉とも言われています。
もう一つ大切なことは『公事方御定書』が秘密法典であるということで、これについても様々な議論があって、「いやいや秘密ではない、実際は漏れていた」とか、国民のためだ、といったことを述べる学者もおられますが、私は少なくとも建前として秘密であったということが極めて大事であると思っています。つまり、行政庁（主体）が国民に義務を賦課する場合、その根拠法条を示す必要はないということです。例えば、山鹿素行のケースも赤穂に流されたとき、同じく、本人が聞いても根拠法が示されませんでした。
明治時代で言えば、天皇の官制大権によって作られた「天皇の官吏」の行うことには無謬性があるという話の元だと言っても良いと思います。
このような秘密法典主義では、国民はどうやって法典を知るかというと、「八百八お七」のように、要するに市中引き回しを行って、「こういうことをすればこういう目にあう」ということを見せしめするいうことです。これまたアジアの特徴であり、私自身、中国でこれから死刑を執行される人の引き回しを見たこともあります。所詮これでは「国民に公布する」という話しではなく、国民は見せしめの反射として知るだけです。
『論語』の「民は由らしむべし知らしむべからず」が正にここにあります。このフレーズについても、孔子の真意は違う、という孔子の大ファンがおられますが、これまた単純に賛成できません。
しかも、明治になってから新しく『仮刑律』、『新律綱領』、『改定律例』という、やはり中国法ができましたが、当初秘密法典性は維持されて、『新律綱領』になってから漸く印刷販売されたという話です。
中世の「兄弟」が煮詰められて、１７００年代に入ると平安時代、つまりは律令国家と似たような仕組みになっていた、ということでしょうか。吉宗の将軍就任直前まで大きな力を持っていた柳沢吉保にしても、当然儒教から出てきていますから、所詮同じくヒエラルキー体制ですし、側室正親町町子の『松陰日記』などを見ると、武士というより公家の生活です（六義園は、その遺跡）。
ですから吉宗の孫松平定信がコチコチで、寛政異学の禁を出すのも当然。荻生徂徠が『政談』で述べたとおり、徳川幕府の倒壊は必然であった、ということかもしれません。
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Tuesday, October 28, 2025, 08:32 PM
何度も申し上げているとおり、室町時代の東アジアの情勢は、つまり中国（明）と韓国（李氏朝鮮）という「兄と弟」、そしていわば禽獣扱いの日本というヒエラルキーの国際関係。
それを打ち破る戦国武将たちとポルトガル、スペインの来航。
にもかかわらず、秀吉に存在した「兄と弟」的発想から始まった特に慶長の役によって、儒学というものが日本に相当入ってきた、というのがまずは前提となる話しです。
しかして、看汎という連れてこられた儒学者と交った藤原惺窩あたりの考えは、儒教といってもマイルドなものでしたが、その弟子の林羅山に至っては相当に激しいコチコチですし、また、その次の山崎闇斎につながる保科正之も、先に取り上げたとおり極端な儒教主義（神儒一致）と言わねばならないと思います。
その基礎にあるのは、中国の朱子の理気二元論、つまり、人間の本質を天の理（性とも言う。性善説の性）と、その発現としての気（情とも言う。孟子の惻隠の情）に分ける二元論ですが、陽明学や同じ朱子学でも、この理気をどう考えるかで様々な説が生まれる。いずれにしても硬いといえば硬いし、仏教の焼き直し、といった批判もあります。
そんな中で、同じ儒教主義でも貝原益軒という人は、本拠地が福岡であったせいか、非常に国際的で、だからこそ、マイルドな面を持っていたと思います。長崎にも何度か行き、江戸や京都にも滞在し、上記極端な儒教主義の山崎闇斎らとも交わってはいますが、彼とは深くはつき合わなかったようです。そして、むしろ別途会ったこともある伊藤仁斎の古学に近い、という評価もあります。
一方、黒田藩の武士でしたから、特に『葉隠』に登場する福岡と佐賀との境、背振山の境界争いに関しては、福岡側の担当者としてこれに参加しました。その過程を取り入れたのが『筑前国続風土記』です。これは相当大部な本で、養子の好古の貢献も巨大とか。福岡県の相当な部分を網羅し、その隣まで書いてあります。例えば沖ノ島の描写などもかつて書いたことですが、アジア全体に通じます。
更に、長崎に遊学したことによって明の李時珍の『本草綱目』の考え方を取り入れ、『大和本草』を書きました。『本草綱目』は上海の西郊にあるキリスト教徒・徐光啓の家が博物館になっていて、そこにも置いてありますが、ここと長崎との関係は重要です。ユークリッド幾何学が湯島の聖堂まで来たのにも益軒が関係あると、どこかで読みました。
そんな益軒は、上記のとおりあくまでも朱子学者ではありますが、いろいろと考えを巡らしており、８５歳の時、『大疑録』という本を書きました。これは朱子学そのものを疑っている本ですが、しかし、かといって完全に朱子学から脱皮したわけでもありません。やはり、この辺りに儒学というものを抜け切らない時代背景というものがあるような気はします。
しかし、再説すれば、その儒学は、互いにつき合いはあっても、前林羅山や保科正之、水戸黄門らの傾向とは異なります。彼らとは、天文学や暦の点で大いなる共通性を持っていても。
それを具体的な証拠で表しているのが彼の墓であり、正に福岡市・西新駅のやや東に、奥さんで素晴らしい協力者東軒と仲良く入っています（保科正之らとは異なる）。身分差別のようなものは全くないどころか「四海同朋・論語にある四海之内皆兄弟也」です。
その意味で私は、貝原益軒という人は、バランスの取れた立派な人ではないかと思っている次第です。佐賀の武富家（子孫は大隈内閣の大蔵大臣・武富時敏さんなど）との関係、その流れで多久聖廟とも関係深い中村��斎との交流など、佐賀とも大いに関係があります。
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Sunday, October 26, 2025, 01:39 PM
日本における中世の自由な「契約」の時代から江戸時代の「身分」の時代になった、その途中途中の「人物」の発想や行動様式を見てきました。室町時代中期の韓国の世宗大王の時代から、この東アジアがどんな感じになっていったのかを国家、人間を見ながらずっと見てきた次第です。
そのような流れの中で大王の家来・申叔舟の『海東諸国紀』の「国家間」観。１５９２年、秀吉の文禄・慶長の役の前提となった秀吉の明への手紙。その戦争による朝鮮の儒学者・姜�櫃療詫茵Ｈ爐汎８禁鴻櫃箸良佞�合い。この段階では、惺窩は仏僧から儒学者になったものの、まだまだマイルドです。しかし、次の林羅山に至っては、家康によって僧形を強いられたのに、相当固い儒学一辺倒（つまり「兄弟」の発想の厳格化）となり、おまけに、この林羅山を始祖とする林家（りんけ）が（一種の）外交を司る。だから「外交」も「身分」でコチコチとなり、それが上記のとおり明治時代の日清・日露戦争まで続く。これらの戦争は朝鮮に対し、兄が日本か中国かロシアか、という戦争です。
この羅山の弟子的なのが山鹿素行であり、羅山に大学を講じさせたりしたのが保科正之ですが（羅山は、身分としては低い）、２人とも「偉い人」という評価が一般でしょう。特に後者は。そこで、今回は本当にそうか、ということを検証（？）することをやってみました。
というのは、そもそも正之について、吉川弘文館の人物叢書をしっかりと書かれた小池進先生曰く「私はこれまで、秀忠から家光時代における幕府政治機構の形成過程や、幕府軍団組織での旗本の編成ないし存在形態といった問題を追及してきたのだが、本書を執筆するにあたり、改めて保科正之に関する文献を読んでみて気づかされたことは、これまでの正之像が『会津藩家世実紀』（以下『家世実紀』と略記する）をはじめとして『土津霊神言行録』「土津霊神碑」『千載之松』などの二次史料に拠っており、一次史料がほとんど使われずに形成されてきたということであった。これらの史料は、後世に会津藩が編纂したものや、あるいは正之の治績や人柄を顕彰するために作られたもので、ときに潤色の度が過ぎるきらいがあり、正之のありのままの人物像をどこまで正確に映し出しているのか、という点で疑問が生ずるのである。」と言われているからです。
日本全国どこでもそうですが、江戸時代は特に「名君」が多すぎるわけです。しかも、その「名君」は、正之、黄門、前田、池田、皆親戚で儒教主義的であり、戦国武将とは全く異なる文治主義の行動パターン。思想で言えば朱子学です。意識していないかもですが、この考えで今の私たちが固定されて、これからの日本が上手くいくのかな（？）と思っているわけです。
現代の話はさておき、時々書くとおり、保科正之は徳川秀忠の庶子として生ました。ほとんど親子扱いをしてもらえなかったのですが、母（静さん）のお陰か、兄である三代将軍家光に取り立てられた。この事実は正之に対し、強烈に「将軍のありがたみ」を植え付けました。そして実質的には会津２８万石の大名になったのです。
最初のうちは家康以来の人たちが頑張っていましたから、そう大きな働きはできなかったものの、四代家綱になった時、一種の大老的な扱いになってきました。その彼が４０歳過ぎくらいから徹底的に重視したのが儒教です。儒教の中でも要はヒエラルキー的な、要するに林羅山の発想の純粋化と言ってよいのかもしれません。
亡くなる前にはこれまたシビアな儒学者・山崎闇斎を雇い、神道学者・吉川惟足と交わる。儒教と神道とが集合した神儒一致の考え方になったわけです。つまりは神道と言っても中国由来です。
それがわかるのは彼の墓です。福島県猪苗代町にある墓には、私は何度も行きました。北京にある明（みん）の十三陵や、その他の中国の皇帝の墓と同じ完全な中国式です。これを作るに当り、「正之はまず（式内社である）磐椅神社に参詣して神酒を頂戴し、それが終わると供の者たちと酒宴をひらいた。ついで股肱の臣ともいうべき田中正玄の墓に詣で、そこからおよそ一〇間（約一八メートル）ほど上がった所で、四方の様子をじっと窺い、ついにその地を墓所に定めたとされる。このとき正之が「万代といはひ来にけり会津山たかまの原のすみかもとめて」と詠じると、すかさず傍らの（吉川）惟足が「君こゝに千とせの後の住む所双葉の松は雲をしのかん」と返し、二人はともに悦に入っていたとされる。」と（上記人物叢書）。
しかもこの墓は中国同様規模が大きいわけです。山崎闇斎が文章を書いた「亀趺」という巨大な墓誌があって、その奥に日光東照宮のようなお宮があった（戊辰戦争で焼失）。そこからご遺体までは長く急な坂を登っていかなければいけない。そして、そこに巨大なる円墳があって、一番上に鎮石というものがあります。
この場所選定とその様式に関しては、全て正之の指図によるわけです。私は冬のさ中にそこに行ってみましたが、造墓は大変だったろうなと、滑って転んで事故だって起きただろうと思いました。ちなみに、なので石を氷の上を滑らせて運ぶということだったようで、これも中国の例えば山東省曲阜にある孔子の墓などの一つのノウハウです（前田の金沢にも）。
国学院大学の近藤啓吾先生によれば、何千人もの人間や馬を使って石を上げている。そういうものを歴代作らせる元を作ったということは、これは本当に民のことを考えているのかな、と思わざるを得ません。まるで日本の近くの某国みたいなもので、全く鍋島直茂や、ドイツのポツダムにあるフリードリッヒ大王式の戦国のものじゃありません（彼らの墓は小さい）。彼らのような「実」で判断しないからです。
ちなみに、この土津（はにつ）神社の初代神官が森蘭丸の孫服部安休。また、先に書いた通りここには奥さんの墓がない。身分が低いから。本家の明の十三陵は妻と側室も一緒。日本や韓国の方が本家（？）の中国よりよほど厳格な儒式です。
そんな正之は、同じ儒学者で会津出身でもある山鹿素行を弾圧します。
正之についての前提書によれば、「正之は、老中を前に「当世造言ノ者有リ、是レ世ヲ惑ワシ民ヲ誣イルノ賊也、厳ニ之ヲ錮グベシ」と激しい言葉で素行を糾弾し配流を指示したとされる（「土津霊神事実」）。その結果翌寛文六年十月三日、幕府大目付北条正房から出頭を命じられた素行は、早速その日北条の屋敷に出向くと、素行がかつて仕えたこともある播磨赤穂藩浅野長直（五万三五○○石）への預けとする処分を、正房から申渡されたのである。このとき素行は「御公儀様に対し不届き成る儀は右の書物（聖教要録）の内何れの所にて御座候哉」と問うがた、正房からはなにも返答がなかったという（「江戸幕府日記」、土田健次郎全訳注『聖教要録・配所残筆』講談社、二○○一年）。」とああります。
しかし、実は正之も素行も、林羅山ともつながる同じヒエラルキー的儒教。ただ素行の方が兵学なので少し実践的な古学を言い、よりコチコチの朱子学を批判しただけのこと。なので、正之が亡くなると彼は早速赤穂から江戸に戻ります。どちらにしても、コチコチグループです。
また、素行はあくまでも将軍を大事にするので、勤王という考えはないのに、昭和の時代はすっかり勤王のそれにされてしまい、この傾向は今も強くあります。私が持っている『中朝事実』は、天覧に供され、東郷平八郎の揮毫あり。こういうことの誤りについては、堀勇雄先生らの本がありますが、そんな真に立派な先生方はテレビには出ませんし（既に亡くなってはいますが）、アカデミズムからもほとんど無視（みたい）です。そういう硬直的な名君待望論で、厳しい時代、この国の人々の深層は大丈夫なの（？）と思われるわけです。
以上のような正之ですが、もう一つ手近な一時史料が家訓（かきん）です。「一、大君の儀、一心大切に忠勤を存すべく、列国の例を以て自ら処るべからず。若し二心を懐かば、 則ち我が子孫に非ず、面々決して従うべからず」。これは要するに、上記の経緯から将軍に徹底的に尽くせ、なので、会津藩は幕末京都守護職を受けることになり、二千数百人の侍や婦女子らが死ぬということになりました。
そんなわけですから、正之は、当然、「殉死の禁止」にもかかわりました。
日本（人）の発想はこの１６００年代の半ばで大いに変り、ゆくゆくの明治維新になるということです（ちなみに京都で生まれた山崎闇斎は土佐の谷時中に学び、伝説かもですが、その先生は周防の南村梅軒、というわけで、戊辰戦争の当事者は、これまた皆親戚みたいな儒教者どおし［？？］。あまりにも論理的で激しすぎるから戦争になった、とも言えます）。
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Sunday, October 26, 2025, 01:16 PM
日本乞師（きっし）と言っても、「そんな言葉聞いたことないよ」という方もおられるかもしれませんね。
これは１６４４年に、大陸で、中国本来の典型的な儒教国家である明が滅びたことによって、日本に「復明」つまり明を復活させるための応援を頼んできた人たちをいうわけです。有名な人としては朱舜水がいて、特に徳川家光の末期においては、相当な人たちが日本に来て、軍隊を出して韃靼つまり満州族を叩いてくれるように依頼しました。
この辺りを東大の学生のときから研究したのが石原道博という先生で、『明末清初・日本乞師の研究』という本があります。ちなみにこの本は昭和２０年１０月３０日印刷、１１月１５日発行という大変な時代の本でした。
それはそれとして、日本乞師として最も有名な１人は上記のとおり朱舜水ですが、もう一方の有名な人が鄭芝龍、そして厦門(アモイ)、台湾で活躍した鄭成功、その子供の鄭経という人たちです（特に最後まで頑張った鄭氏政権は、１６８３年まで今のミャンマーに逃げた永暦帝の年号を用い続けました）。この人たちの使節が日本に何度もやってきて、実際のところ徳川幕府もある程度の武器（刀など）は送ったようです。
この経緯について、石原先生は以下のとおり述べます。
「さてかかる明国の態度に対して、わが国はいかなる対策を講じたであらうか。幕府においては、 かかる明清の鼎革に異常の注意をはらっていたが、林春齋（林鵞峰）のごときもこれをみて……『華夷変態』（この本は一生かかっても解明できないくらいの大部で重要な本）をあらわしているくらいであり、この一事より推察しても、わが国がたえず明の衰亡に同情していたことがうかがはれる。
そしてその結果は、ついに行動となってあらわれた。……将軍家光すら大陸出兵の雄図をいだいており、もし機会があり事情がゆるされさへすれば、内々できるだけの應援はこれを惜しまぬ方針であり、事実また断続的ではあったが、多少の兵力・軍需品を送ったらしい。」
しかし、様々な隘路が指摘され、『常山紀談』にも稲葉正勝の深い考えが記されているわけで、「（彼らが）極力南明援助の不賛成を主張したことなどもあり、また古来よりの日支交渉のあとを回顧すべく『勘文』をたてまつらしめたことなどもあり、おそらく秀吉の朝鮮の役のことなども十二分に検討された結果、まず国内の安定整備を第一とすることに意見の一致をみたものとおもはれる。」とまとめられます。
ただし大きな問題として、この「日本乞師」が日本にどんな影響を及ぼしたのかが大事です。石原先生が述べるところは、
「なお我国と関連して、鄭成功について付言すべき二事がある。一は同じく日本請援に来たかの朱舜水とともに、我国における尊王思想の一班がここにも助長されたことであり、青山延于（水戸の儒学者）も薹湾鄭氏記事の跋に、成功の誠忠を明国之光・神州之華と讃え、水戸義公（黄門）の同書編纂の所以を記している。二は言うまでもなく、近松の国姓爺合戦を初めとする浄瑠璃・小説類の文学上・社会上に及ぼした影響が挙げられよう。かく成功の名は我国に不滅なるのみならず、清の聖祖すら康熙３９年旨あり、『朱成功明室遺臣、非朕之亂臣賊子』とて特に勅して官を遣し、鄭成功、鄭経父子の両棺を護送して南安に帰葬せしめられたことより考ふれば、成功の名は大陸にもまた普及にして、独り苦節の芳芬を傅ふるものがある。これを名を義に託して節を全うする能はざりし赴々の丈夫に較ぶれば、その得失果して如何」と。
彼らがかついだ「明」を「南明」と言いますが、１６４４年の祟禎帝の自死、そして、１６４５年の揚州陥落では８０万人が死んだとも言い、有名な史可法の最後も劇的で、彼は南宋の文天祥や岳飛にも例えられ、これらの事象が益々尊王攘夷という観念を強固なものにしたことが考えられます。特に揚州や南京あたりは、江浙地方として、よい意味での儒教の本場。北京の宦官らと争った無錫の東林党などの本場であり、この劇的な有り様は、（ついでに言えば江浙の人々の頭脳明晰さと相まって）日本にも大きな影響を与えたのではないかと思います。
一方、林羅山のあとを継ぎ、かつ上記『華夷変態』をまとめた林鵞峰らは、先祖以来の儒教主義が益々凝り固まっっていく傾向も強く、それが幕末の日本での尊王攘夷の醸成に影響しただけでなく、この日本乞師の影響も極めて大きいのではないかと私は思うわけです（上記揚州陥落の件は幕末において大いに尊攘派において喧伝されました）。
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Sunday, October 26, 2025, 01:04 PM
ここまでは特に韓国、女真、契丹などから日本へ、の話を主体にしてきましたが、もう一つ南方海上も取り上げた方がいいかなと思います。
アジアは長い間「混一疆理歴代国都地図」に見られるとおり、中国を兄、韓国を弟とするいわばヒエラルキー的国家像、いやむしろ皇帝と王の関係という身分によって出来上がっているユーラシアというものであり、それは現代のウクライナ戦争にもつながっていると思います。それは当然ながら貿易においても勘合貿易という朝貢体制を前提とする貿易でした。
しかるに、特に1300年代から1500年代にかけての倭寇は、正に私貿易です。倭寇は前期倭寇と後期倭寇に分かれますが、特に後期倭寇を何とか収めようとして日本にやってきた人が明の鄭舜功です。彼の手になる『日本一鑑』には1500年代の日本の状況を極めて詳しく書かれています。その中にある日本人の格好は、頭頂部の髪の毛がなくて両側にだけあり、刀を背負っている正に凶暴な雰囲気の人物です。
それで私は、この頭頂部に興味をもっています。というのは、『日本一鑑』によると、「いまは皆、髪を剃り落とし、（頭髪の）左右の耳際の髪を少しばかり留めて、束ねて頭の後ろで髷にする。俗に闘殺のときに髪がうっとうしいから、髪を剃るのだという。髪を剃る道具は、中程まで断ち割った竹片を、指で開いて髪の中に入れて、両手でねじって髪を抜く。彼らは、そりゃ痛いもんだよ、と言う」とあります。
よく日本人の月代は兜の座りをよくするためなどという、江戸時代だったか明治時代だったか忘れましたが一人の人の説が横行しているようですが、むしろそうではなくて、このように正に抜いてしまうということであり、これは実は中国の契丹と全く同じです。中国北方の契丹（遼）の男性も、「髪は額と耳付近のみを残し、頭頂部に大きく剃り落としている。これは契丹人の特徴的な髪型であり、髠髪（こんぱつ）と呼ぶ」と言われています（東京国立博物館や九州国立博物館で行なったカタログから）。
ですから、やはり京都大学の田村実造先生が言われたとおり、また、いつも引くとおり、日本人、更に北方ユーラシアの人間たちは、特に男性は正に頭を剃って、極めて激しい性格の人間たちだということが言えるのかもしれません。
そのような元気のいい日本人は、特に1500年代頃、王直を頂点とする後期倭寇として、北だけではなくて南の方まで、いわば東シナ海を荒らし回りましたが、それは勘合貿易という法的ないわばヒエラルキーの貿易ではなくて自由な貿易だったと思います。これがなければ経済が成り立たなかったことはポルトガルの宣教師メンデス・ピントの『東洋遍歴記』にも出てきます。しかも、そうしたことに携るジャンク船が100艘、200艘の単位で博多などの港にいたことも書かれています。ですから、その後の1639年のいわゆる鎖国以後とは全く異なる世界が1500年代あるいは1600年代初めにはあったのだ、ということは覚えておいた方が良いかなと思うわけです。
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Sunday, October 26, 2025, 12:55 PM
明国・明朝は、日本の歴史の現代にまで、というか現代にこそ、絶対に深い関係があると考えています。
まず、明（みん）の太祖朱元璋は、１３６８年に紅巾の乱によって、元つまりモンゴルを北方に追いやり北元にさせました（尊華攘夷）。この事件は、それまでの異民族の支配から脱し、正に純粋中国というものが確立した戦乱だったと言えると思います。
そうすると、新しい王朝のコンセプトは何かというと、「中国に戻る」ということです。これは歴史上何度も起きたことで、間近くは辛亥革命も全く同じですが、「漢民族」というものをどんと打ち出した。
では、その漢民族とは何かというと、古代の漢という国ができた時に、政治制度としては、董仲舒による儒教政治あるいは天人相関説、つまり天から天子が国政を委ねられる、という考え方、これを打ち出した。儒教です。この発想から、例えば一世一元の制度（つまり、その天子に命が下ったので亡くなって元号が変わる）も生まれてきました。
そして、その考え方の基には何があるかというと、これまた中国伝統の「孝」という考え方です。ですから、その朱元璋の南京にある墓の名前は「孝陵」です。祖先、天を向く墓です。
朱元璋が亡くなったあと起きたのが靖難の師でした。これは朱元璋の孫、建文帝が第二代の皇帝に就いたのですが、それを北方にいた五人の子供の内、燕王、後の成祖永楽帝が北京から軍隊を南京に差し向けて政権を倒した戦争です。
問題はこの時、中国伝統の発想からは、the king can do no wrongですから、皇帝である建文帝を直ちに排除することができない、そこで周りの人間つまり「君側」が悪いのだということにして「君則の奸」を除くというスローガンを立てました。日本の昭和の歴史（２・２６事件など）に深く関係してくるわけです。そして、建文帝を除いた後、都を北京に移しました。
一方、北方に追いやられた北元は相当強大で、その防衛のために作ったのが、今の万里の長城です。あれが秦の始皇帝なんぞと言っていると正しい歴史を知ることができません。
北元は、長城を何度も越えたり、皇帝を捕えたり（土木の変）、北京城を取り囲みました。有名な人としては、于謙などがいて頑張りましたが、明は、そうした北虜だけでなく、南倭つまり倭寇によっても苦しめられました。しかし、創業当初の太祖洪武帝、世祖永楽帝がしっかりとそのポリシーを確立したので、以後も明朝は維持されてきたのですが、段々とずれてきて、戦乱が起きてきました。
そこで思想的に生まれてきたのが王陽明（1472〜1529）の発想で、彼は、コチコチヒ・エラルキーの朱子学（？）ではなくて、もっと柔軟性のある考えだったろうと思います。日本で陽明学者と言われている中江藤樹という立派な先生が朱子学を捨てる思想的遍歴にも似ていますが、陽明は長生きしただけに、また武人でもあったのでより大です。ちなみに『葉隠』まで陽明学とか言っている三島由紀夫などは、トンチンカンです。幕末の何人かも陽明学かは？です。そもそも武人・陽明は、ほとんど本も書いておらず、『伝習録』も門弟がまとめたもの。
こうした中、明朝末期は、中国伝統の宦官・魏忠賢などが北京を中心にやりたい放題。例えば北京の香山にある碧雲寺には大理石で作った金剛堂座塔など驚くばかりのものがあります。これに対して逆に南方、特に無錫の東林党という儒教主義の人達は、徹底的にこれと争います。それが後に、例えば顧炎武という人による清朝考証学というようなものになってきました。
こうした中、豊臣秀吉のいわゆる文禄慶長の役は明、そして日本に大きな影響を及ぼしました。この時明人が日本に相当多数やってきたのです。そして更には、１６４４年、明が倒れると、その後の鄭政権、そして日本への話しになってきます。
いずれにしても改めていうと尊王攘夷、君側の奸、一世一元、その前の『詩経』の「維新」、唐の韓愈の「天王（皇）は聖明」といった明やそれが理想とする時代のフレーズが明治憲法の根幹的なところに位置を占め、その昔の東大の穂積八束が述べているとおり、こうしたものが水府の史論つまり水戸学になり、国学が起こって、それが大日本帝国憲法の第一条に据えられているということ。これは極めて重要です（そのうち詳しく）。
しかも、日本では、そんな明の基本的コンセプトの取り入れ方が非常に激しかったということを自覚しなければいけないと思います。昨年の１０月２３日、私は会津若松の松平家墓所に行きました。その時一緒に行った山口県東京事務所の次長さんが、「ここには奥さんの墓はないんですか」と私に聞かれました。確かにその通り、ないのです。「身分」が違うから。例えば、明治天皇の墓といえば、明治天皇と昭憲皇太后だけです。大正天皇の母柳原二位の局とか、その他の宮様方の母である園詳子さんの墓は、都内にあります。
一方翻って考えてみると、明の十三陵の中にある万暦帝の墓には、万暦帝と妻と側室とが一緒に入っているわけです（身分が違うのに）。日本的儒教では妻は一段下がるから入れない、側室に至ってはもっと入れないというような発想なのですが、本家の中国の方がよっぽど「緩い」ということですね。これは「仁」があるということかもしれません。このあたりはよく考えてみる必要があるように思います。
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Sunday, October 26, 2025, 12:42 PM
藤原惺窩が永禄４年（1561年）から元和５年（1619年）の人、林羅山が天正１１年（1583年）から明暦３年（1657年）の人というわけで、ちょうど惺窩の弟子になるのが林羅山です。
実は前回挙げた『惺窩先生文集』は林羅山の書で、藤原惺窩が非常に柔軟な考え方を持った人だったという話は書きましたが、時代が下ってくるとだんだんとそれがそうじゃなくなって、四角四面になってくるというわけ。その典型・林羅山は、１０代の頃から相当「気合」の入っていた人だったようです。
これについては『日本思想体系』の石田一良先生の文章を元にしゃべってしまった方が楽（？）なので、やや不正確になることを承知の上で、とりあえず引用させていただきます。それによると、「さて羅山が十九歳の夏、母の喪に当って作った哀悼の詩およびその序（『羅山詩集』四一）によると、文禄四年（1595）十三歳の時、（京都の）建仁寺に入り、そこに寓居して書を学んだ。このころより羅山は一山のものから僧となるようにすすめられたが、承知しなかった。慶長二年（1597）十五歳の夏、寺僧は人を介して羅山の父を説得しようとした。父は当人の意（こころ）まかせだと答えたので、寺では急いで羅山を剃髪させようとした。羅山は建仁寺を出てすぐ近くにある四条新町の家に行った。そのとき母は羅山に『爾、かつて語らずや、「身体髪膚、毀傷せざるは孝なり。また子孫なきは不孝たり」と。我、爾を養ふこと已に十五年。今、爾、それ出家して僧たらば、これ不孝なり』と言い終るや、涙をさめざめと流した。そこで羅山は一旦別室にさがりすぐに席にもどって、母に『必ず、尊言の如く敢へて僧とならじ』と答えた。……これは少年羅山にとって生涯を決定する極めてシリアスな出来事であった。」と。厳格なお母さんですね。
さて、ここで「身体髪膚、毀傷せざるは孝なり」というのは正にいつも引用する『孝経』の話を言っているわけですね。儒教というものは根本的に『孝経』が大事であり、私は、自分自身が南京の博物館などを見た経験から言うと、これはある意味、人類普遍の世界的な一つのコンセプトだったのが、とりあえず中国においては『孝経』という形において残ったのかなと、さしたる根拠もないのですが思っています。特に、それは葬送の形態において非常にはっきりしています。
そこで、その『孝経』は正確にどう言っているかと見ると、「身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝のはじめなり」と言っているので、頭を剃る坊主さんが大嫌い。しかも、結婚しないというのも良くないということで、それを母から厳しく指摘され、正にファンダメンタリスティックに従ったのが羅山だというわけでしょう。
そして、この『孝経』の教えは、原本によれば、更に「身を立て、道を行い、名を後世に揚げ、以て父母を顕わすは孝の終わりなり」というところに行き着きますので、その「身を立てて道を行う」は、つまり君に「忠」を尽くして親の名を上げるという話になります（孝から忠が出てくるというわけです。ちなみに『孝経』はあっても、『忠経』はありません。偽書はありますが）。
こうして石田先生の紹介によれば、「君を諫めて聞き入れられない時には君の誤に従う、それが臣たる者の忠である、父を諫めて聞かれぬ時は父の悪に従う、それが子たる者の孝である、と羅山は考えた。」です。
この辺りの話になってくると、これまた度々申し上げる『古文孝経』には孔安国という人の序文がついていて、「君君足らずといえども臣臣足らざるべからず」という話になります。つまり、いくら悪い殿様、悪い父親でも従え、という話です。なので、君を諫めて聞き入れない時には君の誤りに従う、それが忠である、とこうなっちゃうわけですね。これは相当なる儒教ファンダメンタリズムでしょうし、今日にも影響を及ぼしている考え方です。
これが江戸時代の初めに、林羅山という人（ら？）によって特に強く打ち出された文治主義の元。家康も学問好きで、学問といえば儒教で、更に孫の家光となってくると、ますます一言で言えば三代目ですから、家康ほどの柔軟性というか、戦国武将的な色合いは強くはない（もっとも、中国の明の滅亡に際して軍隊を出そうかとしたようなところはそれ相当に元気が良かったようですが、そこは稲葉正勝らによってストップがかけられたとか）。
そういう、ちょうど海水と真水が混ざるような時代に、気合の入った羅山は、家光の命令によって今の西郷さんの銅像のある忍岡に学寮を建て、孔子廟を経営することになります。しかも、そこでは『尚書』（＝『書経』）を進講した。
そんな話がどんどん進めば、当然世の中は儒教のヒエラルキー的要素が非常に強くなってくるし、国家間においてもそれをやろうという話になってくる（明をお手本にしたのですが）。そして羅山は、寛永十三年には朝鮮礼聘使への国書を執筆したとおりその中心に位置します。前々回あたりに述べた兄と弟の国家観の復活をどうする、というような話。およそ戦国時代末期における西洋の条約も加味した自由な国家間の動きとは違ってくるということではないでしょうか。
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Sunday, October 26, 2025, 12:31 PM
ここのところ室町時代からの日本と東アジアの歴史を追ってきているわけなのですが、特に戦国時代末期においては、豊臣秀吉が一五九三年（文禄二年）、中国の明に対し「大明日本和平条件」として送った第一条に、「和平誓約相違なくんば、天地たとい尽るといへども、改変あるべからずなり。しからば即ち大明皇帝の賢女を迎え、日本の后妃にそなうべき事」などとあって、アジア的華夷秩序の「兄を中国とし、自らは弟とする」ような発想がここでは見られたものの、しかし、一方では西洋のアジア進出という新しい価値観の提供があり、「兄弟」は当然のように崩れ,朝鮮半島に渡っていったのが慶長の役だったと思います。
その過程ではたくさんの朝鮮や、明の人々、例えば赤穂浪士の武林唯七のお祖父さんなども日本にやってきて、朝鮮からの洪浩然のように武士になった人や、焼物をはじめとするいろいろな文化が佐賀やその他地域に花開いたことは私達に顕著なことです。
一方、秀吉は上記のとおり華夷秩序を破壊しようとしたのに、その後再び徳川の世になって、将軍が日本国大君と称する日本版ミニ華夷秩序形成となった心性の移り変りはどうだったのだろうと、歴史の先生とは少し違う思想の面からど素人の疑問を持って考えてきました。
それについてよく言われるのが、韓国の姜�檗�藤原惺窩、そして、林羅山らの話しです。
姜�櫃蓮�慶長の役（一五九二〜）で藤堂高虎の軍勢に捕まり、朝鮮半島から伏見までやってきました。捕まってから最後に帰国するまでのことを書いたのが『看羊録』です。一緒に捕まったのは二十数名、実際のところ何千以上の人があちこちに抑留されて、遂には日本人になった人の話も載っています。そして、京都の伏見で出会ったのが、藤原惺窩でした。
彼はもともとが播州三木市あたりの人で、西の龍野の城主が赤松広道（斉村政広）といって、要は以前問題にした赤松満祐（嘉吉［かきつ］の乱）の、世代としては下った係累でしたが、この人がものすごく儒学に凝っていて、その縁もあり、惺窩は相国寺の坊さんだったのが、ある日ある時還俗し、儒教的な妻帯までしたということです。しかし、彼の中にあるのは中世以来の禅宗の中にあった三教一致という儒仏道の三つの教えの習合であり、ですから仏教についても相当な親和性を持ち続けた人だったと思います。
そんな藤原惺窩について『看羊録』は以下のように述べています。
「私は、倭京に連れてこられてからというもの、倭国の内情を知ろうと思って、時々倭僧と接した。その中には、文字（漢字）を知り、ものの理も識っている者がなくもなかった。
また、妙寿院の僧、舜首座（この人が惺窩）なる者がいる。京極黄門[藤原]定家の孫で、但馬守赤松左兵[衛]広通の師である。[彼は、]大変聡明で、古文を[よく]解し、書についても通じていないものがない。性格も剛峭（強くきびしい）で、倭では受け容れられる所がない。内府[徳川]家康が、その才賢を聞き、家を倭京に築いて、年に米二○○○石を給した。舜首座は、その家を捨てて住まわず、扶持も辞[退]して受けず、ただ若州少将[木下]勝俊、[赤松]左兵[衛]広通と交遊した。」と。
また、このことについて惺窩の伝記を記した『惺窩先生文集』では、
「朝鮮刑部員外郎姜�檗⇒茲蠅得崗昌瓩硫箸砲△蝓ｚ檗∪萓検�日本国にこの人あるを喜び、俱に談ずること日あり。�檗�曰く、「朝鮮国は三百年以来、かくの如きの人あること、吾、未だこれを聞かず。吾、不幸にして日本に落つといへども、この人に遭ふはまた大幸ならずや」と。�檗∪萓犬竜錣觸蠅鮠里靴胴�胖窩となす。先生、自ら称して惺窩と曰ふ。これを上蔡のいはゆる惺惺の法に取るなり。」と。
細かい詮索はさておき、この段階で、日本の儒教文化が、強固なヒエラルキー文化、果てはいわゆる日本的華夷秩序と言われるようなものになって、「武士の生き方」も変っていったかというと・・・・惺窩はあくまでもその入り口の入り口に止まっていた。彼にも「天道」とかいう発想は生れていたけれど、ヒエラルキー体制にいくには、彼の弟子、林羅山を待つことになる、とそんなところではないかと思います。それというのも彼の代までは、上記のとおり、同じ儒教といっても仏教的要素も極めて強い。むしろ陽明学に近いとも言えました。
『日本思想体系』中の石田一良先生の紹介によりますと、
「室町時代の中期の五山の禅僧岐陽方秀は、禅儒不二を説いた。岐陽は、（『大学』の）『明徳』を説いて、……『みな明徳を天下に明らかにするものなり。わが仏大聖人もまたこれを大亀氏に伝へ、……数伝して以て達磨氏に達す。始め震丹より来りて以て恵日に至り、光明盛大なり。みな一心を下世に伝ふる者なり。その伝ふるところはその名を異にすることあるも、その実は一なり。故にいはく、「明徳は一心の用、一心は明徳の体なり」』『君子、孜々吃々として力を用ふること久しうして、一旦豁然として優に至善の域に入れば、則ち一心の全体大用、明らかならざることなし。ここにおいてか、父母に施せば則ちこれを孝といひ、兄弟に用ふればこれを友といひ、閭里郷党朋友親族の際に行へば則ちこれを忠といふ。凡そ一事あれば一名あり。名は幾百幾千ありといへども、ことごとく一心に出でざることなし』という。岐陽は、禅でいう『本分の田地』＝心を体とし、儒教でいう『明徳』＝仁義礼智信の五常を用として――禅のうちに儒教を取り入れて――心が心外にあらわれて人倫的秩序をそこに実現すると説いたのである。岐陽は、わが国ではじめて『四書集註』を講じ、その禅儒合一の論も、禅に朱子の性理学を合一したものであるが、陽明・兆恩の心学を髣髴させるものがある。（岐陽の死一四二四年が陽明の生誕一四七二年前であることに注意されたい。）」と。
つまりは、日本中世の禅僧は、王陽明の発想より前に実質的な陽明学の発想を持っていた、とも言えるわけで、「誰が先」などと言って誇る必要もありませんし、「世界人類の求めるところは同じ」と考えれば驚くにも値しませんが、とにかく中世儒教（仏教と習合）の「よい話し」ではないでしょうか。
そして、『葉隠』では姜�櫃皸貉�歩を留めた伊予大洲の人（元はやはり播州）、盤珪禅師が「不生の仏心」と「明徳」の一致をしきりに述べていたという点も面白いところです。
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Sunday, October 26, 2025, 10:25 AM
以前の文章と一部重複しますがお許しください。
ここ数回、もとはといえば、武蔵の藤原氏つまり武藤氏が、鎌倉時代の初め、源頼朝の命により、太宰の少弐に補されて九州に行き、室町時代、中国地方の大内氏との特に貿易上の争いにより対馬に押し込められていたところから話を始め、応仁の乱による少弐の大宰府奪回など色々なことがあったことを書いてきました（ちなみに鍋島家の祖先については近江の佐々木氏説とともに、少弐教頼の子孫説があります）。
そのころの対馬と韓国との関係は極めて興味深いもので、足利義教を殺し、嘉吉の乱を起した赤松満祐の弟赤松則繁は、（少弐の助けを借りて）韓国に逃亡し、そこで大暴れ。日本に復帰して、今の奈良県・当麻寺で遂に追い詰められ、自害しました。やったことはメチャクチャですが、彼らの遠大な行動には感動します。
その韓国における自分認識、つまり中国を「兄」とし韓国を「弟」とするという在り方が、そのころの、また今でも、アジアの歴史全体を考えるのに極めて重要な前提だと思っています。
特に、室町時代における中国と李氏朝鮮との「兄と弟」の視点から見ると、日本は弟以下で、ほとんど数に入らない、それは日本が統一国家として成り立っていなかったからということが一つの理由です。
ちなみに弟・韓国の「北」はどうなのかというと、日本で言えば平安時代から鎌倉時代にかけて、旧満州の東には金が。そして、金を滅ぼしたモンゴル・元と元のそのまた前の契丹（遼）があり、これらが中国と兄弟関係を結ぶだけでなく、強力な女真（金）が高麗を弟にする時もありました。いわば大家族的なアジアの動きがあったということです。そして、面白いのは、これら弟の内、中国の影響を大きく受けたのちの韓国以外は、遼も元も金も…男性は日本の侍と同様頭を剃っています。武闘派なのです。
この経緯については、池内宏、田村実造など学者の先生方の分厚い本が何冊もあります。
そんな中で「公主降嫁」の話は重要です。即ち、中国とその周辺諸国とが「兄と弟」の関係になった場合、兄が弟に、兄のところのいわばお姫様を奥さんとして降嫁させるということが行われたわけです（公主はお姫様）。
そして、公主と結婚した弟の方は、駙馬（駙馬都尉）という地位になります。駙馬都尉はもともと皇帝の馬の予備の馬の世話をする人でしたが、いわばお婿さんとして極めて重要な位置を占め、かつ、であるが故に皇帝つまり兄の方からたくさんのお土産をもらうことができました。実質的な貿易です。このようなことが魏晋南北朝辺りから、あるいはその元を尋ねれば漢の時代の王昭君などに行き着くのでしょうが、そんなことが行われてきたということです。
この公主降嫁は、上記のとおりもとは中国の王朝と周囲の国との関係でしたが、それだけでなく、契丹と高麗、金と高麗、元と明というふうに、北の諸国の東西南北間で行われるようになりました。
そして、以上の兄と弟の関係は、駙馬とまではいかなくても、朝鮮と日本との間にもあったように思います。それが先に紹介した『海東諸国紀』にある李氏朝鮮と、佐賀県で言えば千葉一族、中原の節度使つまり渋川氏、唐津の鴨打氏、そして極地的な勢力となった少弐氏等との関係です。これらは、日本が統一国家でなかったとき、朝鮮から日本の一種の地方政権としての、駙馬よりもっと小さいながら一定の地位を得ていたことによるのだと思うのです。それより前は、中国（明）から征西将軍懐良親王が日本国王に補されていたということもありました。
ところが、日本が秀吉による統一国家を成し遂げた時に、秀吉は戦の途中、一度は明からの公主降嫁を要求したものの、結局そんな観念は無視しました。それが秀吉による慶長の役ということになるでしょう。つまり、アジア的な法的制度、駙馬制度、冊封体制に対して全く違う観念をぶつけたのが秀吉であり、その家来であった鍋島直茂でもあったということでしょう。その前提にはサラゴサ条約を下地とした西洋の渡来があります。『葉隠』の中には、その折の数々の武将の話が出てきますので、こんな見地から『葉隠』を読んでみるのも面白いのではないかと思うのです。
また、特に武士道や、日本の昭和の歴史との関係で考えると、肝心なことは、その降嫁した公主が自分たちの宗教を弟のところに持ってきたということ、しかも国際関係から、時代によって持ってくる宗教が違って、特に、満州族（女真）が起きてきたとき、満州族は、先に追い出されたとはいえ強い力を持っていた北元から公主を娶るということをしましたので、その時、持ってこられたものがチベット仏教、つまりはモンゴル仏教だったということです。その前の契丹の場合は、北魏的な仏教だったのですが、特にフビライ・ハンの影響でモンゴルの仏教はチベット仏教になり、一五七七年のダライラマとアルタン汗との会談は決定的なものになって、チベット仏教に。その満州族が江戸時代の一六四四年に中国に入った時、それを拒否する明人が長崎や佐賀に入って、山本常朝の言う「上方風」の武士道ができてきた。そんなことになるかと思います。
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Sunday, October 26, 2025, 10:12 AM
家康の出自ですが、大久保彦左衛門が書いた『三河物語』によると、
「ゲニヤ、八満太郎儀家（義家）より御代々嫡々、然共、儀貞（新田義貞）の威勢に仍、ソレニシタガツテ、仁田之内、徳河之郷中におハしまし給ふ。故によりて、徳河殿（徳川殿）と奉申キ。儀貞、高氏に打負給ふ時、徳河ヲ出させ給ひてより、中有の衆生之ごとく、何クと定給ふ処も無、拾代計も、此方彼方と御流浪被成、有かせ給ふ。
徳の御代に地宗（時宗）にならせ給ひて、御名ヲ徳阿弥卜奉申。西三河坂井之郷中え立被寄せ給ひて御足をやすめさせ給ふ。折節、御徒然サノツレヅレニ、イタラヌ者二御情を懸させ給ヘバ、若君一人出来させ給ふ。
然る処に、松平之郷中に太郎左衛門尉（と）申て、国中一之有徳なる人有りけるが、 イカなる御縁ニカ有やらん、太郎左衛門尉独媛之有りけるを、徳阿弥殿を婿に取、一跡 二立まいらする。然る処に、坂井之御子、後に御尋ヲハシマシテ御対面有時、『尤御疑 無更ニ。然リトハ云共、人之一跡ヲ継グユヱハ、惣領トハ云ガ（タ）シ。家之子にせん』と仰あつて、末えの世迄、乙名とならせ給ふ由、しかとの事ハなけれ共、申つたへに有り。」とあります。
今の群馬県太田市の一部、旧尾島町がその御先祖の地、つまり「徳川」・得川で、新田一族の子孫だったのですが、足利尊氏らの圧迫により時宗の僧となり、諸国流浪の旅に出て、三河国松平郷に行き着き、そこの婿として、家康の先祖となったとのこと。これは嘘というはなしもありますが、山路愛山『徳川家康』には本当のことだろうとあり、最近の本では、「ホント」論も強くて、当時の時代背景、つまりは戦国ならでの話しであることを思うと、北条早雲や、神代勝利ら、皆そんな話であって、私も信じたいと思います。
そんな家康、『葉隠』の中では、孝白本に、「一〇七八 徳川家康、緑に飛んだ一枚紙を拾うて手を拭く、月舟和向の偈 権現様一枚紙の事
或時、家康公御佛参の砌、御前に諸大名伺候の節、御鼻紙を一枚御取り御腰に御はさみ御手水御使ひなされ、候折節、風吹き、御鼻紙を吹散らし、縁の方へ落ち候を、御走り附き候て、紙を御取り、御手を拭かれ候。伺候の衆見候て、ひそかに笑ひ申され候。家康公大音聲にて『何れもは今の仕方を見てをかしく候や。我等が天下はこれにて取りたり。』と仰せられ、濡紙を座中に御投げ捨て、奥へ御入りなされ候由。」と。
また、「一一一〇 徳川家康、甲冑姿で入棺を遺言、神體は血塗りの陣刀
権現様御神号は、御存生の内の御願にて候。御遺言に任せ、御陰骸甲冑御帯し御棺に入らせられ、久野山に御収り、後に日光山御移り遊ばされ候。又御病中四月一三日に、御陣刀にて罪人御切らせ、血附き候儘にて久能御宮御神體に成され候。『東國は皆手に入り、死後も別条有るまじく候。西國心元なく候間、切先を西國の方へ向け込み置き候様に』仰付けられ候由。」とも。
素晴らしい予見力です。
また、「権現様御臨終の時分、半弓を御取り成され、御平臥ながら矢を番ひ、天井をはつしと射通し、そのまま御息絶え候由。天下取に御成りなされ候事は、末期の一矢に有りと申し伝え候由。」と。
更には『常山紀談』では、有名な次の話が。
「権現様豊臣太閤に御対面の時の事
権現様豊臣太閤に御対面の時、太閤、我所持の道具粟田口吉光の銘の物よりはじめて、天下の宝といふものは集めて候、とて指を折数へ立申され、さて、御所持の道具秘蔵の宝物は何にて候哉、と尋ね申され候に、しかしかの物無御座由権現様仰せられ候。さて仰せられ候には、我等には左様の物無之候。但し我等を至極大切に思ひ入り、火の中水の中へも飛入り命を塵芥とも存ぜぬ士五百騎所持いたし候。此の士五百餘余を召連候へば、日本六十余州恐しき敵は無御座候故、此の士どもを至極の宝物と存じ、平生秘蔵に存候由御答ありければ、太閤赤面にて返答なかりけり。」と。
時間がないので、コメント省略ですが、正にこれこそ戦国武将。はっきり言えば「公家化」していません。こんな家康の、信長、秀吉から続く流れと、家光以後とのことを追って比べてみたいと思います。
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